アニメ×『闇レート』×「普遍の法則」
アニメ裏社会……。
そこでは独自の基準がまかり通っている。
そう、非公式のレーティング、通称『闇レート』。
アニメの円盤の売り上げ数値と、ときに激しく異なる、この評価軸。
『闇レート』を作り上げるのは誰なのか、何なのか、答えはまだ、わからない……!!
◯2011年の初夏
震災の影響で、ちょっと遅い『新入り』になったけれど、今のところ、仕事で不都合を感じることもない。
ぼくの新人教育を担当している"先輩"が、ほんとうに頼もしいのだ。「理想の上司」アンケートがあったら、イチローではなく絶対"先輩"に投票している。
決して誇張じゃない。褒めかたも、たしなめ方も、アドバイスのしかたも、ほんとうにぼくの負荷にならない。もちろん仕事もデキるのであって、こんな「理想の上司」、フィクションでもそうそう創れないだろう。
ぼくと"先輩"は、蕎麦屋の4Fにある、何故かいつもひっそりとしている喫茶店で打ち合わせをしていた。
「この資料を見てどう思う?」
飲み終わりの珈琲が下げられ、代わりにお菓子と日本茶が置かれたテーブルに、先輩は資料を置いた。
一番上に『魔法少女まどか☆マギカ』と書かれているので、アニメのブルーレイの売り上げに関する資料なのかと、最初は思った。
ただ、まどマギのタイトル欄の横に「59」という数字が記されている……この数字は、いったいなんなんだろう?
「疑問点がふたつあります。1つめは、まどマギの売り上げ枚数がどうやら記されていないこと。2つめは、『59』という数字です」
「まず、これはブルーレイの売り上げの表ではない。まどマギの下につける作品名を見ればわかるはずだ」
「『ジュエルペットてぃんくる☆』、『四畳半神話大系』、『ハートキャッチプリキュア!』、『夢色パティシエール』……!?」
「『59』という数字は、非公認のレーティングだ。『売り上げにかかわらない客観的な評価軸』を求め、複数の審議官の合議で決められている。
いちおう最高は『60』ということになっているようだが、過去に『61』を記録した作品もある。なぜ最高水準が『60』なのかは判明していない。そして審議官の名前も公表されていない」
「でも……『売り上げにかかわらない客観的な評価軸』なんて、いくら合議でも、割り出せるものでもないような気がするのですが」
「だから、俺たち『監査法人』がいるんだ」
このとき--、
ぼくは、この『監査法人』の正体を知った。
それは、2010年度の地上波放映テレビアニメの非公認レーティング、通称『闇レート』だったのだ。
例えば、BD&DVD合算で初動が3万枚を超えた『けいおん!!』は「55」で8位タイ、同じく合算初動が3万枚を超えた『Angel Beats!』に至っては「53」にすぎない。
つまり、先輩の説明の通り、円盤の売り上げとレーティングが一致していない作品もある。
しかしながら、期間内の作品でいちばん売れた『まどマギ』が「59」で1位だから、「売り上げと作品の客観的な評価が限りなく合致している」と、『闇レート』を作っている人たちは判断したのだろう。
それでも、なんだか、胸からモヤモヤしたものが抜けていかない。
それより、ぼくが唖然としたのは、『ジュエルペットてぃんくる☆』が、「58」で、『闇レート』においては、最もまどマギに迫る2位だったことだ。
ぼくは土曜朝放映のこのアニメを、観なかった。
しかし……、
「『ジュエルペットてぃんくる☆』『ハートキャッチプリキュア!』『夢色パティシエール』。なんで、土日の朝に放映されている、幼女が観るようなアニメが、『まどマギ』や『四畳半神話大系』のなかに紛れ込んでいるんですか!?」
1位:魔法少女まどか☆マギカ
3位:四畳半神話大系
5位:夢色パティシエール
「ウフフ……甘いな」
とつぜん先輩はニヤリとして言った。なぜだが、背筋が凍るかと思うような笑みだった。
そして窓の外の景色を見ながら、
「そうだな、『栗鼠(りす)』と出会ったころ--世紀の変わり目のころは、俺も青二才だったから、なんで女児向けアニメのレートが高騰するのかと思っていたよ」
そうひとりごち、
「それが、『普遍の法則』になる、って悟ったのは、『ジュエルペットてぃんくる☆』が終わった土曜の朝……つまり、つい最近のことさ」
という衝撃的な発言とともに、目を細めた。
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